風のコンダクター
森には、急に大きな風が「ゴーッ」と音を鳴らし
怯えるように木々が戸惑い大きく揺れ
次第に
風に慣れてきた木々たちは「そうだ!」と気づくと
積極的に木の葉を揺らし
種を飛ばし
翌年の為にと共に風に乗り
老いた木々も負けじとしっかり根を張り
見事な演奏会が一斉に始まった。
🌲
周りの妖精も、あまり気には留めなかったが
演奏会は徐々に盛り上がり
あれほど大きな声で
勝手に“がなっていた”カラスも、
スズメも
シジュウカラも
太い声で威嚇する野鳩も
みんな静まり
コンダクターである風は
タクトを縦横無尽に振りかざしだんだん調子を上げ、
タクトを細やかに動きを増し、
種子は、かろやかに
辺り一面に飛び
地に着いたかと思うと
急に歩くようなアンダンテ調子となり、
そこに刈ったばかりの草や土がふんわりかぶり、
再び種子を飛ばそうと指揮者がタクトを強く振ると強いうねりがやってきた。
🌲
演奏会は、更に重みを増し主題が強く鳴り響き
第3楽章のメヌエットでは、
フルートの音色が踊るようにかろやかに響きわたり
森の仲間達もうっとり
時のたつのも忘れ聞きほれていた。
🌲
再び
タクトは、ゆったりテンポとなり
清々しい気分になったカラスは、
急に小川で水浴びを行い
第4楽章のフィナーレでは、
一斉に
野鳩はふくろうの声に似せ、
カラスも、美しい高音の声を奏でながら喉を震わせ
シジュカラはピッコロのように旋律を奏で
見事な演奏会は拍手喝采でアンコールに応え
風は蝶ネクタイを直しながら辺りに何度もお辞儀をしながら去っていった。